SEAGULLIV COLUMN




PM2.5は脳を変えるのか 6300万人データが示す“空気と認知症”の関係

前回、ワインの背景にある「水」と「環境」の問題をひも解いた。
(→ 第4回 「“安全な飲み物”だったワイン 環境リスクから始まる長寿医学」

その延長線上にあるのが、現代特有の見えない汚染―PM2.5である。空気中の微粒子は、水へと移行し、体内に入り、そして脳に影響を及ぼす可能性がある。

今回は、その具体的なデータと、体内で何が起きているのかというメカニズムについて、医師・大友博之氏に伺った。

大友博之(以下:大友)渋谷セントラルクリニック代表、日本抗加齢医学会専門医、欧州抗加齢医学会専門医 →プロフィール詳細
インタビュアー(以下:聞き手)


投稿日:2026.6.30   |  読了:4分  

6300万人データが示した「認知症との関係」

聞き手:現代の汚染リスク、特にPM2.5について先生はどう見ていますか?

大友:PM2.5は今、医学界で最も注目されているテーマのひとつです。
単なる呼吸器の問題ではない、ということが次々と明らかになっています。

特に衝撃的だったのが、アメリカ東海岸の研究群です。

ハーバード大学公衆衛生大学院が、6,300万人以上の米国Medicare受給者のデータを、2000年から2016年にわたって追跡した大規模コホート研究があります。

この研究では、PM2.5濃度が5μg/m_上昇するごとに、パーキンソン病とアルツハイマー病それぞれの入院リスクが約13%上昇するという結果が出ました。

これは膨大な実データに基づく、非常に信頼性の高い数字です。

5600万人規模の研究とマウス実験が示すもの

大友:さらに2025年には、ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、5,600万人以上の米国患者データを分析しています。

その結果、PM2.5濃度が高い地域の住民では、

・パーキンソン病型認知症のリスクが17%
・レビー小体型認知症のリスクが12%

それぞれ高かったと報告されています。

そしてマウス実験では、PM2.5を吸入させた正常マウスの脳において、萎縮・細胞死・認知機能の低下が確認されました。

疫学データと実験結果が、同じ方向を示し始めているという点は非常に重要です。

「1μg/㎥」で変わるリスクという現実

大友:さらにペンシルベニア大学の研究では、亡くなった認知症患者の脳試料約600件を解析しています。

その結果、PM2.5濃度が1μg/㎥増加するごとに、アルツハイマー病の原因たんぱく質の蓄積リスクが19%増加するという結果が出ています。

汚染レベルの高い地域に1年住むだけでも、発症リスクに影響を与える可能性があると考えられています。

ここまでくると、これは単なる「空気の質」の問題ではありません。脳の問題、認知症の問題なんです。

なぜPM2.5は脳に届くのか

聞き手:なぜそこまで影響するのでしょうか?

大友:メカニズムも解明されてきています。

PM2.5は直径2.5マイクロメートル以下という極めて微細な粒子で、鼻や口から吸い込まれると肺を通過し、血流に乗って全身に広がります。

そして一部は血液脳関門を突破し、直接脳内に入り込む。

脳内に入ったPM2.5は酸化ストレスを引き起こし、神経炎症を促進します。

ジョンズ・ホプキンスの研究では、PM2.5への曝露が「アルファシヌクレイン」という異常タンパク質の凝集を誘発することが確認されています。

これが、パーキンソン病やレビー小体型認知症の引き金になると考えられています。

エピジェネティクスが示す「蓄積の怖さ」

大友: エピジェネティクスの観点から見ると、PM2.5への慢性的な曝露は、炎症や神経変性に関わる遺伝子のスイッチを「オン」にし続ける。

それが何年も積み重なることで、アルツハイマーやパーキンソン病として現れてくる。見えない粒子が、じわじわと脳を変えていく。これが現代人が直面している現実です。

※エピジェネティクス…遺伝子そのものを変えるのではなく、「どの遺伝子が働くか(オン・オフ)」を調整する仕組み。食事や生活習慣、環境(空気や水の質など)によって、その働き方は変化する。つまり、私たちの体は生まれつきの遺伝子だけでなく、日々の環境によって変わり続けている。

空気はやがて水になる

聞き手:PM2.5は水にも関係しているのですか?

大友:そうなんです。ここが非常に重要なポイントで、あまり知られていません。

PM2.5は大気中を漂うだけでなく、雨とともに地表に降り積もります。土壌に蓄積し、河川や地下水に溶け込んでいく。

つまり空気の汚染は、やがて水の汚染になる。

さらに、重金属の問題もあります。
鉛・水銀・カドミウム・ヒ素などは、産業活動や老朽化した水道管から水に混入するリスクがあります。

マイクロプラスチックも、今や世界中の水源で検出されています。

「蛇口から出る水は安全」という前提は、そろそろ見直す必要があるかもしれません。

空気から入るか、水から入るか、ルートは違っても、有害物質が慢性的に体に入り続けるという構造は同じです。

そしてその蓄積が、エピジェネティクス的に、脳や体の遺伝子発現を変えていくと考えられています。

→第6回 『 環境リスク時代のセルフケア ― 長寿医学から考える「整える習慣」』へ続く

参考
1) ハーバード大・6300万人のMedicare研究
Long-term effects of PM2_5 on neurological disorders in the American Medicare population: a longitudinal cohort study

2) ジョンズ・ホプキンス大・5600万人規模+マウス実験
Lewy body dementia promotion by air pollutants

3) ペンシルベニア大・脳試料600件超の研究
Exposure to air pollution worsens Alzheimer's disease, Penn research finds
Greenpeace「World Air Quality Report 2024」

Q&A

大規模疫学研究で相関が示されており、脳内への影響メカニズムも研究が進んでいる。

微粒子が血流を通じて脳に入り、炎症や異常タンパク質の蓄積を引き起こす可能性があるため。

はい。PM2.5は降雨を通じて水系に入り込み、水質にも影響を与える。

Profile

大友博之|渋谷セントラルクリニック代表

シーガルフォー使用歴は約20年。エピジェネティクス・長寿医学を専門とし、「何を食べ、何を飲むかが遺伝子の発現を変える」という視点から、予防医療や健康寿命に関する情報発信を行っている。

> 健康寿命を科学的に延ばす未来医療メディア『IshiPedia』
> 東京の長寿医学・個別化医療『渋谷セントラルクリニック』

渋谷セントラルクリニック代表として臨床に立つ一方、自身も深いワイン愛好家として知られ、医療・食・芸術・ライフスタイルを横断した独自の提案を続けている。

医食同源をテーマにした西洋薬膳レストラン「FAM」の監修など、食と健康を結びつける取り組みも行なっている。芸術や文化への造詣も深く、「豊かに生きること」と「健康であること」の接点を人生を通して探求し続ける、唯一無二のドクター。

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